ロミ夫とズリエット ~ 悩める恋愛相談室 ~



<第一幕>

 昔々、ぺェロナの街にキャピュラット家とモンペギュー家という二つの名家があった。
 この二つの家は代々仲が悪くお互いを仇と思いあい、事ある毎にいがみあってきた。
 今日も街中で出会った両家の召使がいがみあい、通りかかったモンペギューの甥ベンジォーリオが仲裁しようとしたが、
 やって来たキャピュラットの甥ナットボルトがベンジォーリオ相手に剣を抜いた。
 そこへキャピュラット夫妻、モンペギュー夫妻も駆けつけ、市民も巻き込んでの大騒ぎに発展した。
 騒ぎをききつけてペェロナの太守エライカラス公爵がやって来た。
 そして今回は見逃してやるが、今後このような街の平和を乱す騒ぎを起こしたら死罪を申し渡す、と宣言した。
 モンペギュー家には一粒種の嫡子ロミ夫がいたが、この騒ぎには加わっていなかった。
 それは彼が行い正しい青年であったせいでもあるが、実はロミ夫の頭の中は両家の憎しみなどではなく、恋の熱い想いで一杯だったのである。片思いの相手はつれないエロライン。
 どんなに誠意をみせても彼女の愛を得ることはできなかった。
 そんな苦しい恋にやつれ果てたロミ夫を心配したベンジォーリオは、今夜キャピュラット家で開かれる舞踏会に忍び込もうとロミ夫に提案した。
 ペェロナ中の美人が集まるというのである。エロラインも来るはずだが、本物の美人たちを見れば薄情なエロラインのことなどすぐに忘れられるぞ、とベンジォーリオは言った。
 頭がエロラインで一杯のロミ夫は彼女に会えるなら、と行くことにした。
 一方キャピュラット家もなかなか子供が育たず、生き残ったのはまもなく14才になろうとするズリエットただ一人であり、
 キャピュラット夫妻は掌中の玉のように一人娘を大事に育てていた。
 そのズリエットには早速バラス伯爵という求婚者が現れていた。バラス伯爵は太守エライカラス公爵の近い親戚であり、申し分のない花婿候補である。
 キャピュラット夫人はかなり乗り気でズリエットにバラス伯爵の申し込みを伝えたが、当のズリエットはまだ結婚ということがピンと来ず、母や乳母に甘えながら、
 お父様やお母様がいい相手だとおっしゃるなら好きになるようにするわ、という従順な返事をするばかりだった。



 さて、舞踏会の夜が来た。ロミ夫はベンジォーリオそして太守の親戚である親友のオキューシオらとともに仮面をつけて招待客の中に紛れ込んだ。
 そんなロミ夫の目に他のすべてがかすんでしまうほど初々しく美しい少女の姿が飛び込んで来た。
 ロミ夫の心からあれほど恋焦がれていたエロラインの面影が跡形もなく消えうせてしまい、ひたすらその美しい少女を見つめていた。
 そんなロミ夫の様子をナットボルトが目にとめ、モンペギュー家のロミ夫だと見破った。
 ナットボルトは叩き殺してやると息巻くが、めでたい宴会の席を汚すことは許さないとキャピュラットに叱られ止められた。
 その場は何とか我慢したが、侮辱と感じたナットボルトはいつかカタをつけてやると心の中はロミ夫に対する復讐心で煮えたぎった。
 ロミ夫は美しい少女に近づき二人の視線が交わった。その途端、さっきまで幼い面影を残していた美しい少女ズリエットはまるで薔薇の花が一瞬にして開くように恋に落ちた。
 ロミ夫はまずはズリエットの手を取り接吻した。そしてその次には唇に接吻した。
 その時乳母がズリエットを呼びに来てその場はそれきりになったが、乳母を通してお互いにその素性を知り驚くことになった。
 こうして仇同士の両家のたった一人の跡取りである少年と少女は運命的な恋に落ちたのであった。



<第二幕>

 舞踏会はおひらきとなり、オキューシオやベンジォーリオは一緒に帰ろうとロミ夫を探したが見つからず、仕方なく帰ってしまった。
 ロミ夫は新しく生まれた恋に心がざわめき、ズリエットを求めてキャピュラット家の庭園に隠れていたのである。
 やがてズリエットが2階のバルコニーに現れて独り言でロミ夫への愛を語り始めた。たとえ仇の一人息子であっても自分にとっては変わりなく恋しい人なのだ、と。
 それを聞いたロミ夫はうれしさからたまらずにズリエットの前に飛び出した。
 恋の告白を当の相手に立ち聞きされて最初は恥らったズリエットであるが、これで一足飛びに二人の想いは通じ合い、二人は激しい恋の情熱のおもむくままに真の愛の誓いを求め合った。
 翌朝ロミ夫は僧院にロマンス上人を訪ね、ズリエットと真の愛を誓いたいから神の前で結婚式を挙げてくれと頼んだ。
 今までエロラインに恋焦がれていたロミ夫のあまりの心変わりに驚いたロマンス上人だが、
 ロミ夫がズリエットと結婚することによって長くいがみ合っていた両家が仲直りするいい機会かもしれないと思い、二人に力を貸すことにした。
 乳母が使者となり、今日の午後にロマンス上人の庵室で式を挙げよう、というロミ夫の伝言がズリエットに伝えられた。
 焦れて待っていたズリエットは飛ぶようにロマンス上人の庵室に駆けつけ、そして二人は上人の手で真の愛の誓い(結婚の誓い)をして夫婦となった。



<第三幕>

 ところが、式も終わりに近くなる中、どこから情報を嗅ぎ付けたのか、ロミ夫の往年の想い人エロラインが乗り込んできた。
 「なによ、この浮気男」などと、さんざん野次りながらロミ夫の首に腕を回し、接吻をした。「あなたは、ずっとこうしたかったのでしょう?」と。
 あっけにとられていたズリエットだったが、はっと気を取り直し、ロミ夫にエロラインの素性を尋ねた。
 思いもかけない修羅場にロミ夫は、二人に和解を求めた。それをエロラインが侮辱し、ロミ夫の態度を情けないと思ったズリエットが挑戦を受けてしまった。
 ロミ夫はなおも争いを止めようとして二人の間に割って入ったが、その隙にエロラインがズリエットを引き倒してしまった。
 ズリエットは「何で止めたの?あなたはこの人を愛しているの?」と叫んだ。
 自責の念から自制心を失ったロミ夫は怒りに任せてエロラインを、短剣で刺してしまった。
 あたりは騒然とし、居ても居られなくなったロミ夫はその場から逃走した。
 騒ぎを聞いてぺェロナの太守エライカラス公爵が駆けつけ、ロマンス上人から事のいきさつを聞いた。
 そして集まって来たキャピュラット夫妻やモンペギュー夫妻の前でロミ夫の処罰を言い渡した。
 ロミ夫はペェロナから指名手配され、もし見つかった暁には禁固六年ということになった。



 ズリエットは己の恋を呪っていた。夫となったロミ夫と結婚式だけを挙げてこのような事になったことに。
 ズリエットは、ロミオを恨むが、やがて夫となったロミ夫が傷つけたエロラインのお見舞いに行った。そしてエロラインといろいろと語り合った。
 一方、ロミ夫は、どう許しを願い出ればいいのだろうと考えていた。



 ロミ夫は夜に紛れて、謝罪しようとズリエットの寝室に現れたところ、ズリエットに悲鳴をあげられてしまった。
 館内は騒然とし、またまた、ロミ夫は窓を蹴破って逃走してしまった。ズリエットの「お願いだから、罪を償って」という言葉を背に。



<第四幕>

 ズリエットはロミ夫を悔い改めさせる方法はないだろうかとロマンス上人にすがった。
 ロマンス上人はジュリエットの固い決心を聞き、そこまでの気持ちでいるなら、と最後の手段とも言える危険な方法を教えた。
 ・・・ズリエットは42時間仮死になる薬を飲み、死んだと回りに信じさせてキャピュラット家の霊廟に埋葬される。
 それを知ったロミ夫が悔い改めて太守に自首を願い出る・・・というものである。
 死へ直結するかもしれない仮死の薬。覚悟してきたとはいえ、思わずひるんでしまったズリエットであったが、
 他によい方法があるわけでなく、この身震いするような恐ろしい方法に賭けてみるしかなかった。
 キャピュラット家ではすでに祝宴の準備が始まっていた。家へ帰ったズリエットは反抗した自分が悪かった、おっしゃる通りにバラス伯爵と結婚した方が良かった、と父親に謝った。
 しかしロミ夫に反省を促したいズリエットは、独り死の恐怖と戦いながらロマンス上人から渡された仮死になる薬をあおった。
 翌朝ズリエットは計画通り仮死状態で発見され、死んだと思われて皆の嘆きの中、キャピュラット家の霊廟に埋葬された。



<第五幕>

 ズリエットの葬儀の様子を見ていたロミ夫の従者バルスザーは驚いて、ロミ夫にズリエットの死を伝えた。
 そして何も知らないロミ夫は本当にジュリエットが死んだと思い込んでしまった。
 己の罪深さに絶望したロミ夫は貧しい薬屋から無理やりに毒薬を買い求め、(毒を売った者は死刑になるのである)
 せめてズリエットの側で息絶えたいとペェロナのキャピュラット家の霊廟へと急いだ。



 キャピュラット家の霊廟では新妻となるべきであったズリエットの死を悼んでバラス伯爵が花を手向けていた。
 そこへこの事件の犯人ロミ夫が現れたものだから、遺体にまで侮辱を加えにきたのだと思い、バラス伯爵は剣を抜いた。バラス伯爵の従者はあわてて人を呼びに駆け出した。
 もはやズリエットの側で死ぬことしか望みはないロミ夫は邪魔になるバラス伯爵を斬り捨ててしまった。そしてようやくたどり着いたズリエットの側で毒薬をあおって命を絶った。
 ロマンス上人は様子を見にキャピュレット家の霊廟に向かった。ロマンス上人は斬捨てられたバラス伯爵とズリエットの側で息絶えているロミ夫の遺体を発見した。
 思いもかけない悲惨な成り行きにロマンス上人が呆然としたその時、ズリエットが仮死から目覚めた。そこへバラス伯爵の従者が呼んできた夜警が駆けつける物音が聞こえてきた。
 ロマンス上人はズリエットを促して共に逃げようとしたが、ズリエットは拒み、ロマンス上人一人がその場を去った。
 ズリエットはバラス伯爵とロミ夫の死を嘆き、このような愚かしい計画を立てたことを悔やみ、迫る夜警の足音に促されるようにロミ夫の短剣で胸を突いて二人の後を追った。
 夜警の通報で太守エライカラス公爵、キャピュラット夫妻、モンペギューらが駆けつけた。(ロミオの所業に心を痛めたモンペギュー夫人はすでにこの世を去っていた)
 皆は一体何が起こったのかわからなかったが、捕らえられたロマンス上人、バルスザーが事情を話した。
 聞き終わったエライカラス公爵は人々の勘違いがこのような悲惨な結末を招いたとキャピュラットとモンペギューの反省を促した。
 そして若い人たちの血がたくさん流されるという大きな代償を支払って、ようやく両家に和解と話し合いの道が開かれたのであった。
 しかし、結局、この事件の責任は相談されたロマンス上人が背負わされるハメになってしまったのであった。
 そして、事件の顛末を思い、いつかカタをつけてやると誓っていたナットボルトはとても複雑な心境になったのであった。



 (終わり)



Based on Shakespeare Romeo and Juliet






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