「金色の怪しい循環」
港湾都市の片隅に、ひっそりとした倉庫街があった。
そこに眠っていたのは、正規の流通ルートを通らずに密輸されて海を渡ってきた“金塊”。
それは、ある国の制度が生み出した「輸出すれば還付される税金」を狙った密輸品だった。
その夜、運送会社の装甲車が倉庫に入った。
運転席の男は、妙に落ち着いていた。
助手席の男も同じだった。
二人とも、まるで“これから起きること”を知っているようだった。
倉庫の扉が開くと、黒い影が流れ込んだ。
影たちは手際よく金塊を積み替え、装甲車を奪い、夜の街へ消えた。
翌朝、運送会社は被害届を出した。
「金塊が盗まれた」と。
保険会社は淡々と書類を処理し、補償金を支払った。
それは彼らにとって日常業務の一部でしかない。
数日後、金塊は別の港から“輸出”された。
名目上は合法な取引として。
そして、輸出した者には制度通り還付金が支払われた。
それもまた、行政の通常運用の一部だった。
金塊を失った会社は保険金で補填され、
保険会社は業務として支払い、業務執行能力で評価され、
政府は制度として還付金を出し、行政執行能力が評価される。
誰の財布も、致命的には痛まない。
ただ、金色の塊だけが、
密輸 → 盗難 → 補償 → 輸出 → 還付
という奇妙な循環を描いて、
世界のどこかへ消えていった。
そして怪しい錬金術が行われたかのようだった。
倉庫街の静けさは、事件の前と何も変わらなかった。
ただ、夜風だけが、
「何かあったのですか?」
と問いかけるように吹き抜けていった。
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